死地を越えよ

22歳くらい

『楽園のカンヴァス』原田マハ

 原田マハの『楽園のカンヴァス』を読んだ。最近積極的に本を読んでいるらしい友人が薦めてくれたのだ。彼女はこの本を読んで、大いに引き込まれて、美術に興味を持つまでになってしまったらしい。

 

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

 

 ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。

 

 つまり、楽園のカンヴァスとは美術作品をめぐるミステリーである。

 

そんなに引き込み力の強い本なのかと思いながら読み始めるも、第一章では想像より引き込まれることがなかった。ほうほう、いつから面白くなるんだろうと思いながら、ページをめくった。ピカソやルソーの作品のことは全く分からないので、話に出てくるたびにググろうかと思ったが、調べるとなると膨大で小説どころじゃなくなってしまうぞと思い、文章から適当に思い浮かべていくに留めた。

第二章、第三章と読み進め、第四章まで読むと、この物語が①登場人物たちの現在(2000年)②登場人物たちの過去(1983年)③物語の中の物語(ピカソやルソーの記録。つまり、1900年前後?)の3つの軸があるとわかり、格段に面白くなった。ここで、引き込まれていった。それぞれが絡み合って、連鎖して、それぞれの謎が紐解かれていく。話が進むにつれて次々に、ルソー・ヤドヴィカ・ピカソのこと、織江・ティムのこと、バイラー・コンツ・ジュリエット…など、各々の思惑や込める想いが明らかにされていく。

 

ミステリーでありながら誰が死ぬわけでもなく、絵画をめぐって(美術品の見識を深めながら)、いくつもの愛が丁寧に描かれていて、すごくバランスのいい話だなと思った。(今に始まったことじゃないけれども、偉そうに言ってスミマセン)

たしかに、これを読んだら美術館に行きたくなる。もっともっと美術を知りたいと思う。もっと多くのことを知っていたら、もっと多くのものが見えるんだろうと感じた。なんの関係も見いだせなかったものの間に、実は、自分が知らないだけでなんらかの繋がりがある、世の中はそんなことだらけなんだろうと今一度意識した。

186頁に

その頃、ピカソは、一冊の本を読んでいました。「地獄の季節」。あの放浪の詩人、アルチュール・ランボーの詩集です。その中の一節が、画家の心のひだにぐいっと指を突っこんできて、そのまま抜けずにおりました。

とあった。きわめて個人的な感想だが、ここでぞわぞわっとした。ランボーって、中原中也が訳したやつか!私の好きな、悲しみの詩人、中原中也が訳したランボーピカソランボー中原中也、私。一見なんのつながりもない人間が、ごく細い糸で繋がれていた。マジカルバナナみたいな感じ。(この並びに自分を入れるの厚かましいにも程がありますね)

 

というわけで、面白かったです。わくわくドキドキハラハラと温かい気持ちのバランスがとてもよかったです。絵のことも好きになります。原田マハさん、ほかにも美術関連のお話沢山書いてるんですね。絵への愛が溢れています。解説が作家の方ではなく、大原美術館館長だったことからもそれがにじみ出ているような気がしました。もしも次に読むなら、『暗幕のゲルニカ』を読みたいです。

 

暗幕のゲルニカ

暗幕のゲルニカ